2009年10月3日土曜日

スーツとエプロンと散弾銃

秋の10週間、毎週火曜日はスーツとエプロンと散弾銃の日。超忙しい日なのだ。

火曜日は、学校の事務系の仕事をしている私はもちろんのこと、大学で教えている夫も授業のある日なので朝一番から二人とも出勤。朝7時に子供たちを学校へ送っていき、職場へと急ぐ。

夕方は必ず4時15分までには職場を出て、5時45分くらいに家へたどり着き、着替えもせずにスーツを着たまま、エプロンをつけて夕食の準備をする。5時30分の電車で帰ってくる夫が、子供たちをピックアップして、連れて帰ってくるのが5時50分くらい。6時10分までには夕食を準備して子供たちに食べさせる。

子供たちが食べている間に夫と私は着替え、銃庫にしまってある散弾銃と散弾を取り出す。6時25分には子供たちも空手着に着替えさせ、犬も含めた家族全員で家を出る。6時28分に子供たちを空手道場の前でおろす。「ママ~。ドアを開けるのは車を止めてからにしてよ。」とチャーリーに言われてからは、一旦停止して子供を下ろしている。(運転手側のドアを開けないと、後ろのドアが開けられない不便な車に乗っているので、つい減速しながら運転手側のドアを開けてしまう。)5秒ほどのロスタイムだが、仕方がない。

空手道場から2分。6時30分に私たちのクラブに到着する。ここでやっと一息つける。

クラブの名前はイプスイッチ・フィッシュ・アンド・ゲームズ・アソッシエーション(Ipswich Fish and Games Association)。イプスイッチ釣り猟協会とでも訳しておこう。釣りや狩猟が好きな人や、射撃スポーツ愛好家が集まっている。クレー射撃、ライフル、ピストル、アーチェリーなどが出来、敷地内にちいさな池と川があって毎年放流する魚を釣ることもできる。

会員の職業は本当にさまざまだ。会長はロブスターの漁師、普通の漁師、他には電気工や水道屋、IT のハードをする人、ソフトをする人、外科医、内科医、高校教員、看護婦、特殊学校教師、大学教授、大工、ソーセージ工場の社長、会計士、公務員、パート、警察官、兵士。昼間はいろんな顔を持っているが、ここではみな仲間。次の手術まで2−3時間ほどあるからと、練習にやってきた外科医に「おまえそんなことしてていいのかよ〜。」「練習しても、下手は直らないんだから患者くらいは直してやれや。」とちゃかしたりもすれば、漁師にクラムチャウダーの秘密の素材を教えてもらったりする。政治家批判をすることもあれば、先週末に釣った魚の大きさを比べ合ったりもする。何よりいいのは、クラブの維持に関するたいていのことは、会員だけで自給自足でやれてしまうことだ。屋根の修理、暖房の修理、野外照明の設置、新しいライフル場の建設、クラブ主催のピクニックや収穫祭の材料や調理、などなど外に頼むことなどはほとんどない。

さて、火曜日の6時半には、クラブにもうたくさん人が集まって、クレー射撃のリーグ戦が始まるのを待っている。1チーム5人ずつで6チーム。30人のうち女性は3人。中高生の男の子たちが3人。あとは大人の男性である。毎週違うチームと対抗戦をする。

うちの駄犬アディーも1日中ひとりで留守番をした後なので、仲良しのラブラドールリトリーバーのゲージ君と走り回っている。2匹とも猟犬として育てているので、銃声に慣れている。アディーは銃を出してくるだけで、部屋の中を喜んで走り回る。銃が出てくる時には、自分も必ず連れて行ってもらえることを知っているからだ。

1番目に撃つチームは6時半きっかりに射撃ラインに並ぶが、他の人は誰かが持って来てくれたおやつを食べながら、世間話をしたり撃っている人をはやしたりする。

クレー射撃の競技方法はいくつかあるのだが、ちょっとここで私たちのクラブでするリーグ戦の形式を説明しておこう。

1チーム5人で形成されているが、自分でチームを選ぶことはできない。まず全員が春のリーグ戦の時の成績順に5レベルのグループに分けられる。そして、それぞれのレベルからランダムに1人づつ選んでチームを作る。だから、どのチームにもトップレベルの人もいれば、私のように一番下のレベルの人もいるわけである。

リーグ戦は総当り形式で、それぞれのチームがほかの5チームと2回ずつあたる。その際、レベルが同じもの同士で「対決」する。射撃ラインにチームの5人が並んで立つ。それぞれのポジションからランダムに飛ぶクレーを5つずつ撃ち落とす。5つ撃ったら、次のポジションへ移る。基本的には全員が5つのすべてのポジションから5回ずつ総計25回ずつ撃つ。

これを6チームが繰り返し、その晩対戦するチームの成績とくらべる。

ただ、自分がミスったクレーを、右隣りのチームメートが撃ってもいいことになっている。撃ち落したクレーの数が多い方が勝ち。たとえば、私がクレーを10個撃ち落としたとしよう。そして私の右隣りの人が私がミスった15個のうち、7個を撃ち落としてくれたとしたら、私の成績か17個である。相手チームの5番手が16個撃ち落としていたら、私の勝ち。

勝ったらチームに1点加算される。引き分けの場合には0.5点ずつそれぞれもらえる。欠席者がいた場合には自動的に敵方に1点行ってしまう。負けたらもちろん点数はもらえない。だから、下手でもその日の対決相手よりも、ひとつでもクレーを多く撃つと勝ちで、自分のチームの総合点に貢献することが出来るのである。

夫と私は違うチームなので、7時半になると、手のあいている方が子供たちを迎えに行き、家に連れて帰る。おやつを食べさせ、お風呂にいれ、ベッドに入れる。両チームの順番が遅い場合など、タイミングが合いそうにない時には、子供たちに任天堂DSのゲームを持たせ、道場で待たせておく。

夫婦そろって夕食にありつけるのは夜の9時ごろだ。

その後、いっしょに銃の手入れをする。もうこの時期には夜は冷え込むので、ストーブに薪を入れて部屋を暖かくする。

ダイニングテーブルの上をかたづけ、フェルトを敷き、その上で銃を分解する。無繊布を少し油に浸して銃筒から小さな部品まできれいに磨き上げる。手抜きは出来ないから、二人とも腰を落ち着けて、のんびりと1日のことなどを話しながら手を動かす。一日で一番、心も体も休まる時だ。手元を動かしていると、自然と普段話さないようなことも話す。



子供たちといっしょに読んだローラ・インガルスの「大きな森の小さな小屋」にも似たような情景が書かれていた。ローラのお父さんが夜、暖炉の前で銃の手入れをして、次の日のために弾丸を作っている場面だ。そんな時、お父さんは子供たちに昔話やおとぎ話、森のくまに出合った話などをいろいろ聞かせてくれたという。

ある晩、銃の手入れをしているときに子供たちも隣でおやつを食べていた。もう少し大きくなったら、ライフルの練習を始めようなどと話していた。「妙ちゃんがボーイフレンド連れて帰ってきたら、お母さんと二人で銃の手入れをしている所を見せながら、『娘に変なことをしたら、、、』って脅かすのさ。」と夫が言ったら、娘が「そんなことしなくても、私が自分の銃を手入れしているところを見せて『私に変なことしたら、、、』って言うから。」とのたもうた。

さすが私の娘です。(ちなみに彼女はまだ9歳。)

0 件のコメント:

コメントを投稿